DHTの影響を受けにくいはずの横側がなぜハゲるのか
男性ホルモンの一種であるDHT(ジヒドロテストステロン)は抜け毛を増加させて薄毛を進行させてしまうホルモンとして知られています。このDHTはアンドロゲン受容体と結合することによって髪の毛の成長を抑制する因子を産生し、髪の毛の成長する期間が短くなることで段々と薄毛へと導いてしまうのです。このDHTによる影響で薄毛になる部位というのは、冒頭でもお話したように頭頂部からおでこの生え際にかけての前頭部となっています。その理由として、DHTへ変換する酵素が頭頂部から前頭部にに多く分布されているという特徴があるからです。
そして、DHTによって薄毛が引き起こされてしまう症状を総称してAGA(男性型脱毛症)と呼ばれています。
一方、側頭部にはこのアンドロゲン受容体はほとんど存在していないため、AGAによる影響は受けにくいと考えられているのです。
DHTについて詳しくは「AGAを引き起こす男性ホルモン「ジヒドロテストステロン(DHT)」とは~男性ホルモンに共通の役割とDHTの特徴からAGA治療薬がDHTを減らす作用の仕組みまで解説」をご参照ください。
側頭部にはDHTへ変換する酵素が少ない
薄毛になっている人を見てみるとよくわかると思いますが、側頭部だけがハゲている人というのを見かけるのは極稀です。それは、側頭部にDHTへ変換する酵素がほとんど存在していないので、DHTが結合して髪の毛の成長を抑制する因子を活発に産生することが無いからと言われています。ただ、この酵素がほとんど無いからと言って薄毛になる可能性はゼロではありません。実際に側頭部がハゲてしまったという人もいますので、AGA以外の原因も視野に入れておく必要があるでしょう。
横側(側頭部)が薄毛になる原因として考えられること
頭部の横側が薄毛になってしまう症状は稀ではありながらも十分に起こりうる可能性を秘めています。また、ただ横側がハゲているのではなく、何らかの病気が関連していることもあるため注意が必要です。横側が薄毛になる原因は以下の6つが考えられますので、それぞれのタイプと対策、予防法を見ていきましょう。
1. 血行不良
科学技術の発展に伴って、身体を動かして仕事をする、あるいは娯楽を楽しむということが少なくなってきました。取引先との会話はテレビ通話で済んでしまいますし、行きたいところの景色はPCやスマホで検索すれば一瞬で出てくるため、足を動かす必要がありません。このような一例を含め、仕事はデスクワークが多くなり、PCやスマホで一日を楽しむ人が増えたために運動不足による血行不良が問題視されるようになりました。運動不足によって起こる血行不良が頭皮の薄毛に繋がるということは一見考えにくいですが、薄毛になる可能性を高めてしまう習慣だということを覚えておきましょう。
血液というのは、その中に各器官がスムーズに働くために必要な栄養素を運ぶ役割も担っています。そこで頭皮に送られるべき血液の流れが滞ってしまうと、頭皮の健康を保つため、あるいは髪の毛の成長に必要な栄養を上手く供給できなくなってしまうのです。
特に1日中パソコンやスマホでの作業を中心とした生活をしている方ですと、肩や首のコリ、目の疲労によって血行不良が加速してしまうこともあります。その状況が続くことで、髪の毛が段々と痩せ細ってしまい抜けやすくなってしまうのです。
これは側頭部のみ起こるものではなく全体的に起こりうる問題なので、髪の毛が細くなってきたかもと感じているのであれば、血行不良になりやすい生活をしていないか振り返る必要があります。
対策と予防法:血液の流れを良くする習慣を作る
血液の流れを良くするために必要なことは、何よりもまず身体を動かす習慣を身につけるということです。血液の流れを良くするためには身体を動かしてあげることで筋肉がポンプの役割を果たしてくれるだけでなく血管も拡がりやすくなります。運動をする時間が中々ないという人は、お風呂に使って身体を芯から温める、頭皮マッサージをして頭部の血液の流れを良くするという対策法がおすすめです。頭皮マッサージを行う場合、肩や首のコリも一緒にほぐしてあげることで、心臓から送られてくる血液の流れをよりスムーズにさせてくれますので時間がある時は肩と首のマッサージも行うようにしてください。
それ以外にも目の疲れというのは薄毛になりやすくする可能性があります。目に疲労が溜まると目の周辺の筋肉が緊張してしまうため、頭部の血行不良を増長させてしまうことになります。
また、目の疲労物質を取り除く際に必要な栄養素は、髪の毛の成長のために使われるものなので、目の疲れをそのままにしておかないということも薄毛にならない予防法と言えるでしょう。具体的には目にとって良いと言われている栄養素のルテインやゼアキサンチンを摂取する、あるいは目の周辺やこめかみ周辺のマッサージをして疲れを癒やしてあげるということが効果的です。
2. 甲状腺機能の低下
甲状腺から分泌されるホルモンには、髪の毛の成長に必要な毛母細胞を活発にさせる作用を持っています。ただし、甲状腺機能が何らかの要因によってその機能が低下した場合、抜け毛が多くなってしまう、髪の毛が生えてこなくなってしまうといった症状が現れる場合があります。また、並行して身体が疲れやすくなった、だるい気分が抜けない、むくみやすくなった等の症状は甲状腺機能の低下に疑いがあるので早めに医療機関での検査を考えましょう。
対策と予防法:医療機関で検査を
甲状腺機能が低下したことによって横側の薄毛になってしまっているかどうかというのは、自分の目だけで判断することは不可能です。そのため、近くの医療機関で血液検査を受けて判断することが必要不可欠になります。甲状腺機能の低下を放置していると、横側の薄毛だけではなく体調不良や各部位に不良が生じてしまいます。甲状腺機能を改善するためには投薬治療をしていかなくてはいけませんが、私生活でバランスの取れた食事、適度な運動、睡眠を取るといった健康的な生活を送ることで予防することができますので、自分の生活を振り返って直せるところがあれば直していくと良いでしょう。
3. 牽引性脱毛症
髪の毛がある程度の長さになるとヘアゴムで結んだり束ねたりしますが、髪が引っ張られている状態が続くと毛根に負担がかかってしまい抜け毛が起きてしまいます。毛根に負担がかかり抜け毛が起きてしまう症状を牽引性脱毛症と呼び、ツインテールやポーテール、お団子ヘア等、結び方が多彩な女性がなりやすい脱毛症の一つとして知られています。側頭部の髪の毛というのは後ろに束ねがちになってしまうので、どうしても髪が引っ張られてしまい負担がどの部分よりも大きくなりがちです。男性は短髪でいることが多いためこの牽引性脱毛症になることは少ないですが、側頭部の髪が長く、束ねることがあるという人は牽引性脱毛症になる可能性は十分に考えられます。
対策と予防法:毛根への負担を極力減らす
対策として毛根への負担を減らすことで髪の毛に加わるストレスが減りますので、結ばない日を作る、結ぶ場合は長時間結び続けることを避けて集中した負担を与えないようにすることが良いでしょう。予防としてはなるべく長い髪を避けることが、髪を結ぶ必要がなく毛根への負担も減らせますので、短い髪で生活をすることをおすすめします。髪が長いと髪が濡れてしまった時に乾きづらく、その状態を放置してしまうと細菌が繁殖しやすい環境になってしまいます。そうすると、牽引性脱毛症だけではなく細菌が増殖したことによって起こる脂漏性脱毛症も併発しやすくなってしまうので、強く結ぶ髪型ではなく、短い髪でいたほうが薄毛になるリスクは低くなるでしょう。
4. 蛇行性脱毛症
10円玉の様な円状に抜け毛が発生し、髪の毛が生えてこなくなるのが円形脱毛症と呼ばれますが、この円形脱毛症の一種に蛇行性脱毛症と呼ばれる症状があります。この蛇行性脱毛症は髪の生え際に沿って帯状に髪が抜けてしまい、耳の上部のの髪の毛に及ぶ場合があるのが特徴です。円形脱毛症の内、この蛇行性脱毛症は重症の部類に属し、改善できる可能性が低いとされています。また、大人よりも子どものほうが発症率が高く、円形脱毛症自体なぜ発症してしまうのか正確なメカニズムは解明されていません。ただし、自己免疫応答やストレス、アトピーになりやすいかどうかなどの要因によって引き起こしやすくなるのではないかと考えられています。
円形脱毛症について詳しくは「【円形脱毛症(AA)とは】原因・4つの症状・治療など正しく知ろう~ストレスとの関連性やステロイド治療薬、シャンプーのポイント、隠す手段などまで」をご参照ください。
対策と予防法:専門医に相談
円形脱毛症の脱毛箇所が小さければ自然治癒する可能性も高くはなりますが、蛇行性脱毛症は自然治癒が難しいとされており、専門医に相談するのが良いでしょう。治療法として用いられることの多いものが脱毛箇所にステロイドを注入する方法です。それ以外にも脱毛部位に強制的に炎症を起こして自己免疫応答を抑制する目的で行われる局所免疫療法等の治療法があります。
5. 脂漏性脱毛症
脂漏性脱毛症は、頭皮の毛穴に存在しているマラセチア菌と呼ばれる皮膚常在菌が異常に増殖してしまったことで炎症を起こして抜け毛が増えてしまうのが特徴です。マラセチア菌は皮脂や汗等の汚れをエサにして増殖するため、頭皮が汚れたままで長時間いると脂漏性脱毛症になりやすくなります。この脂漏性脱毛症は頭部のどの部分でも起こり、側頭部でも抜け毛が生じる可能性は十分にあります。1日の汚れをそのまま放置して就寝してしまう人や、皮脂が分泌しやすい生活を送っている人は注意が必要です。
対策と予防法:皮膚科へ
脂漏性脱毛症の対策のとして、まずは増えすぎてしまった菌を抑制する必要があります。菌の数を減らすことを考えた場合、皮膚科で処方してもらえる抗炎症薬や抗真菌薬で行うのが効果的です。また、予防法として皮脂や汚れをそのままで放置しないということが大切なので、1日に溜まった頭皮の汚れはその日の内に洗髪して洗い落としてあげましょう。また、脂質の多い食品ばかり取っている生活を続けていると、それだけ皮脂の分泌量が多くなってしまいます。バランスの良い食事を心がけ、適度な運動と睡眠を取りストレスを抱え込まない生活を目指していきましょう。
6. AGA
DHTによって抜け毛が増加してしまう症状をAGAと呼びましたが、このAGAが起こると髪の毛が生えてくる量よりも抜けてしまう量のほうが増えてしまうため、長期的なスパンを経て薄毛が進行してしまいます。また、ジャンクフードやインスタント食品ばかりを好んで食べる方や、睡眠不足、ストレス、過度な飲酒や喫煙はAGAになりやすい体質を作り上げてしまいます。ただし、このAGAの症状は先ほども説明したように頭頂部からおでこの生え際にかけての薄毛になっているため、側頭部はあまり影響を受けません。とは言うものの、進行してくると、横側(側頭部)にも薄毛が及ぶ可能性があるので、念のため覚えておきましょう。
対策と予防法:病院での治療と並行してセルフケアを
今ではAGA専門のクリニックも増えており、病院の皮膚科に受診することでも治療をしてもらえるようになりました。病院はどこにでもあるかと思いますが、皮膚科となると皮膚で起こる症状全般を請け負っているため、より信頼できるのはAGA専門クリニックでしょう。これらの機関ではAGAの改善に期待ができる薬の処方や自毛植毛、HARG療法等を受けることができます。これらの治療に加えてセルフケアを並行して行うと効率が良いので行っていきましょう。
DHTの生成を抑制するのに期待ができる栄養素の一つとして、大豆イソフラボンがあります。大豆イソフラボンは女性ホルモンであるエストロゲンと似た作用をすると言われており、エストロゲンは髪の健康を保つ役割を持っています。大豆イソフラボンは大豆製品には含まれている成分なので、豆腐や納豆、豆乳等の食品から簡単に摂ることができて便利です。
また、普段の生活習慣も睡眠不足が続いていたり、ストレスの多い環境に身を置いていたりと、身体に悪影響を及ぼす行動をしていてはせっかくの病院やクリニックでの治療も効率を落としてしまいます。生活習慣の見直しと改善もまたセルフケアの一環として取り入れていきましょう。
AGAの治療について詳しくは「【AGAの治療について】3つの治療方法・期間・薬の効果と副作用から保険適用まで網羅的に」をご参照ください。
薄毛とAGAの違い
薄毛というのは文字通り頭皮にある髪が薄くなってしまうことですが、AGAも同様にして抜け毛が増えてしまうために起こる薄毛なので、一見違いがわからないという人も少なくないでしょう。AGAというのは薄毛になることではなく正確には薄毛になってしまう症状の一つとして捉えるのが正しいです。薄毛というのは概念が大きく様々な原因がある一方で、AGAというのは原因が決まっており、他の薄毛とは異なっています。
原因が異なる
AGAは何度も説明していますがDHTと呼ばれるホルモンによって抜け毛が多くなってしまうのが主な原因で、それ以外にも遺伝や生活習慣によって引き起こされてしまうと言われています。ただし、薄毛と言うとこのAGAの他にも側頭部の薄毛や後頭部の薄毛も含まれるのです。そうすると、血行不良が原因であったり、円形脱毛症が原因であったりと異なった原因からくる薄毛なので、そこは正確に理解しておいたほうが良いでしょう。
まとめ
ただ薄毛になってしまったから効きそうな行動を取るのでは効率が悪く、まずは原因と症状を見極めて、それに合った適切な処置を考えていく必要があります。場合によっては病院へ受診をしなければいけないこともあるため、たかが横側のハゲくらい気にしないと軽い気持ちで放置しておくことは止めましょう。早期発見して早期対策をすれば改善できる可能性は高くなるということを覚えておいてください。